草うしのおじちゃん/草うしプロジェクト運営会議委員 古屋輝行

05.日本人の間違った味覚認知

この世界でも生産と消費のバランスで、どうやら経済効率を追求するあまり、短期間に多頭飼育を前提にした牧畜経営が主流になっています。養殖はまちや鶏(ブロイラー)と同じで、生まれる前から人工的に操作され、産まれるや否や狭いスペースの中で飼われ、様々な感染症予防や栄養補給のために抗生物質、合成ビタミン投与と本来牛の餌ではない穀類主体の餌に高たんぱく、高脂質分を混ぜ込み与えます。更に早く大きくするために運動もさせず脂肪分の多い柔らかい肉質のものを育てる。いま流行りの言葉で言えばまさに牛のメタボリック・シンドロームです。(牛の病気や原因については、後述「なぜ草を食べることにこだわるのか」、「牛の生態について基本的な話」を参照下さい。)

日本人の不思議で間違った固定観念化された味覚認知に、“脂がたっぷりでとろけるほど~舌で切れるほど柔らかい~”というのがあります。脂が多ければ美味いのか?柔らかければ良いのか?そうではなく美味しいと言う事は、先ずその食べ物本来の味が充分にすることが前提ではないでしょうか?

本来の味がしてそして健康で栄養分・ミネラルいっぱいの牛肉を食べようと思えば、草などの本来の健全な食べものと運動が基本の飼い方・育て方をした牛でなければ無理ではないでしょうか。そう言う意味では、現代人は何が本来の味なのか忘れてしまっていたり、全く本来のものを食べたことがなく養殖品や加工品ばかりで味覚を可笑しくされてしまっていたりもしています。テレビやベタな情報メディアでタレント達が「とろける~柔らかい~脂いっぱい~」と馬鹿の一つ憶えのコメントで埋め尽くされるので、一般消費者(視聴者)の頭の味覚認知が「とろける程に脂がいっぱいのものが最高」・・・と誤反応してしまっている。

日本の食生活(食文化)に牛肉が本格的に登場した明治以来、独特に変化し定着した牛肉に対する味覚とそこから生まれた“サシ信仰”に代表されるおかしな食文化や価値観。
民俗学の研究者でモンスーンアジア地帯の風土に立脚した都市空間づくりやライフスタイルに関する研究、執筆、著作活動を行うユーラシア・クリエティブ・ジャパン代表=今井 俊博氏は、増刊現代農業2002年2月号「スローフードな日本」で以下のように記述している。

・・・・・「そして、黒毛和牛は、ドイツ、アメリカの近代栄養学に起源する霜降り志向の銘柄食品化の犠牲となり、病んで久しい。
悲哀は、この霜降り志向がそのまま私たち日本の美食(それは明治文明開化とともに採用された肉食が、そのまま関西ではすき焼き、関東ではすき鍋というご馳走としてシンボライズされ、第二次大戦後は、ハンバーグ、そしてさらにハンバーガーというふうにゼネレーションが下がるにしたがって肉を塊で食べるという量の肉食に変転していった)にステーキ文化がなおも根強くひきつがれていることにある。赤身そのものの熟成のうま味ではなく、脂身が焦げたジューシーな味を最高とする嗜好性が、テーブルの味として肉をさばく料理人をはじめ、業界全体の通念となり、生活することを捨てた消費の時代の消費者としての私たちも、これを食文化として採用してしまった現実を何とするのか?」・・・と。