私たちと産山村上田尻牧野組合の取り組みは、今年で14年目、年間出荷頭数約140頭の規模になります。私たちが取り組んでいる阿蘇の”草うし”は毛色が褐色で鼻鏡部は桃色、蹄と角はあめ色なので学術名=褐毛和種、通称=あか牛と呼びます。性質は気性がおとなしく大らか。暑さ寒さに強く放牧に適した褐毛の和牛で、阿蘇の地で役牛として飼いはじめて1000年の伝統を持っています。とても順応性と環境や病気に対するストレス耐性の高い牛です。明治の時代にに古来種のあか牛にシンメンタール種を掛け合わせ今の“あか牛”が生まれました。肉質はもともと脂身が少なく赤身が旨い特徴を持っています。このような素晴らしい伝統と特徴を持つ褐毛和牛も、近年ではここ阿蘇地方でも「あか牛」生産者が黒毛和牛の「サシ信仰」市場相場に迎合して草を食べさせず濃厚飼料多給・集約飼育型へとどんどん変わりつつあります。そんな褐毛和牛をもっと本来の健康と旨さを兼ね備えた正しい食肉牛として育てるために、放牧と草をいっぱい食べることにこだわった「育て方の厳格な基準」を設定し取り組みを始めました。
そしてその基準を満たした阿蘇・上田尻産放牧褐毛和牛のことを私たちは阿蘇・上田尻の「草うし」®とブランド名称化し登録しました。
その基準は・・・
①基本のスタンダードタイプの生産基準
●仔牛(繁殖農家)
子牛調達の範囲 | 調達順位=1上田尻牧野組合、2産山村内、3阿蘇北外輪山出生の子牛(去勢、雌)。親子放牧で育成された子牛で以下の基準に合致した子牛のみを購入。来歴の情報開示。 |
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親牛情報確認 | 繁殖農家の情報シートにて粗飼料多給・放牧牛の確認。病歴(代謝障害や内 臓疾患、重度の病歴のない事)・薬歴、給餌内容の提示 |
授乳、給餌内容 | 母牛からの初乳、哺乳。人工乳、代用乳不可。離乳時から粗飼料飽食・配合飼料制限給餌。母牛不在等などの場合は例外として人工乳、代用乳を認める。 (いづれの場合も予防目的での抗生物質不可。成長促進剤、遺伝子組み換え材料の 禁止。PHF。)病気治療は獣医師の指示と内容の記録保存・情報開示。 |
飲料水の内容 | 日本百名水=池山水源、九重山系の湧水(年1回の水質検査)と由来の水道水飲用 |
放牧期間 | 3~7ヶ月期間の親子放牧。春生まれ、冬生まれで放牧内容が異なります。 (11、12、1月冬生まれでも裏山放牧など昼間放牧子牛のみを調達) |
育成記録 | 病・薬暦、給餌状況の記録、日常からの外貌検査 |
予防接種 | 4~5ヶ月齢時に3種混合予防接種、イバラキ病予防接種 |
●肥育牛(肥育農家)
上田尻牧野組合の皆さん
育成者 | 上田尻牧野組合共同牧場、池山牧場、埜口牧場 |
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子牛導入時情報 | 繁殖生産者情報・素牛育成記録(病・薬歴、給餌内容、肥育放牧記録、体重測定記録) |
( 〃 ・法規手続き) | 血統(出生地、親牛情報)、鼻紋等 |
・定期健診 | 月度ごとの体重測定と外貌検査(目・触診)の記録化 |
肥育期間と給餌内容 |
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●子牛、肥育牛共通 項目
給餌内容と粗飼料比率 (8~26ヶ月齢) |
自給粗飼料給与・粗飼料多給型(乾物DM換算粗飼料:濃厚飼料給与比率
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飲料水の内容 | 日本百名水池山水源、九重山系の湧水(年一回の水質検査)と由来水道水飲用 |
定期衛生検査と 薬物投与について |
毎月度の体重測定と外貌検査(臨床症状)の実施。その他、血液検査等は適宜実施し記録の保存。 予防目的での抗生物質不。、成長促進剤、栄養補給剤、人工繊維代替物は使用しない。(但し予防接種ワクチン、駆虫薬投与及び病気治療のため獣医師が指示した場合は最低使用可。病気と治療方法、医師を日誌に記録保存する) ダニ駆除用バイチコール塗布は可。 |
畜舎環境 | 肥育時スペースは最低一頭 / 6m2以上、畜舎は700~800mの高冷地で、採光・風通し・水はけがよく、オガクズ・敷わら・もみがらが充分いきわたり糞尿の処理が常にできる乾燥して清潔な畜舎環境。 |
放牧と牧草利用範囲 |
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個体標識 | トレサビリティ法に則り個体識別番号耳標装着(10桁)、鼻紋採取 |
糞尿処理 | 完全醗酵堆肥化し近隣農家と敷きわらとの交換や牧草地・農地に完熟肥料で施肥。 |
●屠畜、流通
屠畜環境 | 熊本県畜産流通センター(HSSP基準をクリアーしている県内トップ施設) |
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枝肉熟成期間 | 約10日間(屠畜~流通の期間) |
流通経路 | 産直形式・熊本県畜産流通センター~全農近畿畜産センター~大丸ピーコック |
「草うしプロジェクト」の取り組みは、子牛を産ませ育てる繁殖農家さんとの関係から始まります。一般的には、子牛を成牛まで育てる肥育農家さんが公営の子牛セリ市場で子牛を買って育てます。“素牛(子牛)七分”と言われるように子牛の質がその後のほとんどを決めてしまう程に重要です。セリには多数の地区から子牛が持ち込まれ、そこで子牛の体高や体重その他の発育振りを見極め選定するのですが、経験則的に健全・健康的な飼い方をした子牛は発育状態も良いことになりますが実際どんな状況で育てられたかは充分に把握できない事も多いので事前情報と良く知った提供農家とのコンタクトが重要です。
牛は親から子へとその遺伝子が強く影響しますので何代目○○とかの血統書が幅を利かすのです。
良い牛の飼い方は、先ず子牛を生むための母牛は「夏山冬里放牧」(または準づる)「裏山放牧」など放牧で草をたっぷり食べさせる飼い方をしています。阿蘇の原野を自由に歩き回り充分な運動と日光浴をし、新鮮で美味しい水と栄養たっぷりの野草や牧草を好きなだけ食べ、元気な赤ちゃんを産む体調を作ります。その健康そのものの親牛から産まれた子牛は、安全で栄養たっぷりな初乳を飲み母親と一緒に運動をし母乳もたっぷり飲み暮らしています。春~夏産まれの子牛は2・3週齢頃から放牧地で牧草や野草を食べ始め、ちゃんと食べれる草を知っていますし、母親から教わって少しづつその量を増やします。そして6~7ヶ月齢までは母乳と草類の粗飼料の両方を食べ、体重が200~220㎏になるまでのんびり親子放牧のスタイルで過ごします。運動と日光浴は筋骨を育て肢蹄のしっかりした牛に育てるために必須で、運動は心臓、血管、呼吸器などの発達を促し、病気に対して抵抗性のある牛を作り、また放牧による日光浴はビタミンDが欠乏しておこるクル病や骨軟症の予防になります。もちろん代用乳や哺育期での濃厚飼料は使いません。
繁殖農家さんはそうして育てた子牛を近隣から集まって行うセリにかけます。私たちは、組合内育成牛またはその近隣で顔の見える繁殖農家から、独自に設定した“飼い方基準”に合致した条件の子牛だけを買います。
理由はその繁殖農家さんの牛の飼い方、環境、給餌の内容や育ち方の状況など様々なリアルな情報が把握できます。何よりも“うし”に対する愛情が分かります。常日頃より充分に分かり信頼しあえる関係が成り立っています。子牛の育て方から他ではなかなかできない方法です。