●お肌つるつる、健康にも良い―肉はスネ肉にかぎる。
スネ肉はスジが多く硬いために、シチューなどの煮込み料理の材料といったところが一般的な料理法。ところがその成分といったらこれはとても優れものです。スネのように運動量が多く、小さな筋肉が集っている部位では筋肉自身も硬く、また各種の膜や腱も多くスネは硬いのです。しかしその膜や腱の主成分はコラーゲンというタンパク質です。コラーゲンとはタンパク質の一種で、人間の体のタンパク質の3分の1を占めています。骨などの強化に役立ち細胞と細胞をつなぎ合わせ、しっかりと固める“接着剤”の働きをします。コラーゲン分子にはハイドロキシプローリンという特異的なアミノ酸が存在しています。その量を別表でみますとヒレやサーロインの3倍以上の量になります。またコラーゲンは皮膚の張りを保つため不可欠な物質として化粧品に取り入れられていますが、肌のためだけではなく免疫力を高める作用もあります。コラーゲンは加熱をすると80℃前後で水に可溶性の分子であるゼラチンに変わり、肉に柔らかさを増します。スネ肉は他の部位と比較して脂肪分が少なくタンパク質が多く旨味成分たっぷりで安い、今の時代に合った肉と言えます。店頭ではほとんどの場合、他の端肉と一緒にミンチ肉にしてしまいますので塊として出る機会が少ない部位です。
でも馴染みのお店に、前もって1㎏ほどたのんでみられては如何でしょう。
肉好きの方には、厚さ2cmほどのミニステーキでどうぞ。天然塩だけで味わって下さい。歯応え充分な肉を噛めば噛むほどその奥から肉本来の旨味が、口の中いっぱいにひろがります。次のお奨めは、ビーフストロガノフ。肉もすっかり柔らかくなり野菜の甘味と肉の旨味が混ざり合って絶妙です。
●牛の筋のハイドロキシプローリン量(μg/g)
サーロイン | ヒレ | すね・浅指屈筋 | すね・×側手根伸筋 |
---|---|---|---|
520 | 350 | 1,430 | 1,160 |
●和牛の筋の化学成分(100gあたり)
タンパク質(g) | 脂質(g) | Fe(g) | ビタミンB1(g) | |
---|---|---|---|---|
かた(脂身つき) | 18.3 | 16.4 | 1.9 | 0.12 |
リブロース(〃) | 15.6 | 30.8 | 2.2 | 0.06 |
すね | 21.6 | 5.6 | 3.0 | 0.11 |
●食肉は長寿、元気のもと・・・
私たちの体はリン脂質とタンパク質によって構成されていますが、これらに活性酸素が作用して過酸化脂質やタンパク質の過酸化物ができます。体内の脂質が過酸化され過酸化脂質ができるときにもフリーラジカルが生じるため、活性酸素、フリーラジカル、過酸化脂質の3つのファクターが相互に関連しあって異常な酸化をおこして老化を促進しているのではないかと考えられています。体内のタンパク質が酸化されると生体は自分のタンパク質を認識できなくなって免疫不全をおこします。しかし生体内では有害な活性酸素やフリーラジカルから体を守る“抗酸化”という防御システムが備わっていて、そのメンバーはスーパーオキシドジスムターゼやタカラーゼなどの酵素で、活性酸素を安定な形に分解しています。酵素以外では、ビタミンA、C、E、ベーターカロチンなどがあってその中心的な役割を果たしているのがビタミンEです。
体の構成タンパク質も同様に過酸化を起こすため、良質のタンパク質を補って構成タンパク質の更新をはかることが大切です。食肉は人間の体のタンパク質に近いアミノ酸組成を持っていますから好ましいタンパク源です。
老化とコレステロールの関係について、長寿地域の高齢者のコレステロール値は決して低い数値を示していません。またその地区の食生活調査では高齢者になっても食肉の摂取量が減少していません。高齢になっても食肉の摂取量を減らす必要はなく、むしろ積極的な接種が望ましいといわれています。
●肉を柔らかく調理するには・・・(*注 「草うし」には必要ないとおもいますが・・)
おいしそうな肉を手に入れ調理する時、どうしたらおいしく食べられるのかなー?と思います。食味の大きなポイントの1つに食感があります。“肉を柔らかくする”4つのポイントを述べます。
① 塩をかける
肉調理の前処理として食塩を用いると、保水力向上及び筋原繊維タンパク質の可溶化の効果によって調理肉を柔らかく仕上げます。
② マリネ処理する
食肉、野菜、魚介類などマリネ処理によって、嗜好性、保存性を高めることを行いますが、マリネとは、酢、ぶどう酒、油、香辛料、ハーブなどで調合したものです。マリネ処理すると、金繊維、結合組織が膨潤するために調理肉のやわらかさが増します。この効果は醤油、清酒、レモン汁などにもみられます。
③ プロテアーゼ(たんぱく分解酵素)による軟化
原料により2種類に大別することができます。1つは微生物由来のもの、もう1つは植物由来のプロテアーゼを利用する場合です。その方法は、、キウィフルーツや生姜の絞り汁を用います。果物や野菜はプロテアーゼを含むことが多く、これらの絞り汁を肉に振りかけてから調理すると効果があります。
④ 筋を切ったりたたいたり。機械的な方法
ステーキやカツレツなどに適した肉でも結合織の部分はかたく、調理した時の縮みの程度が筋線維より大きいため、この部分の適所に包丁を入れておくと、焼き上がった肉が反り返るのを防ぐことができます。その他には、肉たたきやビンでたたいたり生け花の剣山状のもので筋線維や結合織を切る方法もあります。
●炭火で焼くとなぜおいしいか・・?
炭火で焼肉をすると、炭火から遠赤外線が出ておいしく焼きあがる・・・といわれますが、本当なのでしょうか。
遠赤外線とは熱線と呼ばれる赤外線の中で一番波長の長い電磁波の一種で、空気の媒体を必要とせず、直接、物に放射されるので表面のほか放射を吸収した内部からも加熱されます。このため加熱効果が大変よく、色、香り、風味が損なわれにくく、また加熱速度が早いのが特徴です。手近な熱源で遠赤外線を多く放射するのは炭火です。これに対し他の熱源は、空気による伝導、対流により物表面に熱が届き、表面から内部に伝導するため、効果、加熱速度が遅くなります。
肉の旨味成分であるグルタミン酸ナトリウムは、旨味を与えるばかりでなく、酸味、塩味、苦味を緩和し甘味といっしょになると複雑な味の「こく」を出す作用があり、いっそうおいしさをまします。加熱によってグルタミン酸の含有量の変化を調べると、生肉を1とするとガス火焼肉から1.8倍、炭火焼肉から2.2倍のグルタミン酸が検出されました。同じ熱でも炭火は旨味を引き出す効果が高いようです。実験で厚さ40㎜前後の牛もも肉を90秒間直火で網焼きした時、ガス火の場合は表面温度が85℃で内部温度34℃になりました。一方、炭火の場合は表面81℃、内部40℃で、その時炭火が出す遠赤外線の放射量はガス火より約2.5倍多くなりました。肉内部にも遠赤外線放射が吸収され熱により水分がある程度蒸発し味の成分濃度が高まり、同時にタンパク変性によりしっとりとしたかたさが形成されるとともに、旨味成分であるグルタミン酸ナトリウムが増えてきます。ガスは燃えると水素を発生するので水蒸気により味が薄められ旨味や全体的なしっとりさがなくなるようです。
*今さら聞けない肉の常識 平野正男 鏡 晃 著・(株)食肉通信社からの抜粋