草うしのおじちゃん/草うしプロジェクト運営会議委員 古屋輝行

10.草うしの生態について基本的な話

10-3. 牛を健康に飼うには

牛に限らず豚でも鳥でも家畜を健康に飼うには、その動物が心身共に自然な状態で快適でストレスの無い飼い方ができれば最も健康に飼えると言えます。
その環境条件は・・・

A) 広い広大な土地

=牛が放牧されのびのび運動し、自生の草類が自由に採食できる土地があること。またその土地で牛たちが年間食べる量の牧草を育て採草・保存し、放牧採食以外の期間にサイレージ・牧乾草にして給餌できること。


草うしの放牧風景

草うしは一頭が成牛出荷されるまでの約26ケ月の間に(黒毛和牛は出荷まで約38ヶ月前後)レギュラータイプの肥育で約3,500㎏の牧草を食べる(全飼料給与の乾物摂取量比率=粗飼料35:濃厚飼料65で肥育の場合)。その草類が質・量共に自前で賄える事が全ての大前提であり牛飼いの基本中の基本。
(*安価な輸入の牧草や稲藁には有毒植物の混入、カビ毒、鉱物毒、加工処理毒、農薬汚染、寄生細菌や輸入時農薬散布消毒の問題があり安全で良質な自給粗飼料に拘ります。)

畜舎飼いをする期間も牛たちがストレスを感じないほど清潔で充分なスペース環境が必要です。牛たちは運動することで肢蹄のしっかりした骨格の丈夫な牛になり、放牧し日光にあたることでビタミンDを蓄えることが可能になります。その他の共通した環境要因では、温度、湿度、風、日射の条件が重要となります。


畜舎でサイレージを食べている

B) 新鮮な水

=成牛ではその体重の50%以上を水分がしめています。体脂肪の大部分または体蛋白質の約半分が失われても生命の維持が可能ですが、体水分の10%を失えば障害が現れ、20%を失えば死に至ります。成牛が一日に必要な水分摂取量は気温20℃で40~50リットル、30℃で70~80リットルにも及びます。牛たちには常に充分量の新鮮な水が自由に飲める環境が必要です。


日本名水百選「池山水源」


放牧地内の水飲場

C) 健康な牛は草をいっぱい食べています。(食べ物と栄養素)

=前述したように牛は草を食べ生きている草食反芻動物です。したがって基本は放牧による野草や牧草をお腹いっぱい食べ、そこから健康に発育する充分量の栄養と水分、エネルギーを得て育っています。牛はその一生に食べる量は5tと言われています。褐毛和牛は生体体重700kg、26ヶ月前後で出荷と畜されます。(褐毛=26ヶ月前後、黒毛=38ヶ月前後で出荷と畜)しかし黒毛を中心に近代になり経済効率的に牛を増体させ、サシと言われる脂肪交雑度合いを高める飼い方をするために、その飼料の大半を牛本来の飼料ではないトーモロコシ、大麦、大豆、糠類、油粕、魚粉等のカロリー価、脂質分の高い飼料に合成ビタミン剤、抗生物質、その他添加物を配合し与える飼い方が主流になっています。


(*粗資料・濃厚多給解説チャート)S(表/草うし物語より)

牛が本来食する草類の飼料を専門的には粗飼料と言い、穀類中心の配合飼料を濃厚飼料と言いますが、健全な牧草や野草には充分で高質なタンパク質、ビタミン、ミネラルが含まれているのでそれら良質の粗飼料を充分に食べていれば特別に濃厚飼料や補助食品を与える必要はありません。一般的には現在日本の黒毛を中心とした肉牛の肥育において、粗飼料の給餌水準は全乾物給与量の10%前後(以下ともいわれています)で濃厚飼料多給型の生産が主流で、各種の栄養障害を起こしやすい状況が散見されます。濃厚飼料にはビタミンやミネラルが少なく、それを補うためにビタミンA・Eを中心に薬剤投与で補っているのが実情です。それらのビタミン類が不足すると、壊血病、くる病、脚気、夜盲症になり、また濃厚飼料を多く与え続けると、ほとんどの場合間違いなく高い確率で肝膿瘍症候群になります。またサシ(脂肪)交雑度合いを上げるためにビタミンAの正常な摂取量をはるかに少なく抑えた飼い方をしたり、最近の方法では、仕上げの1・2ヶ月は完全にビタミンAを与えずに飼育するとよりサシの度合いが上がるそうで、牛の本来の味や栄養素、健康度などとは別の育て方が慣行となっています。問題は肥育環境と共にその給餌内容の質・比率であり、健康体・健康な牛の育て方とは言い難い給餌内容のものが慣行的になっていることです。草をたくさん食べて育っている牛の糞はあの嫌な糞尿の臭いがありません。一方、濃厚飼料多給の牛は胃腸の働きが不健全なので常に軟便状態。糞はどす黒くベトベトで牛舎全体が嫌な臭いで充満しています。