草うしのおじちゃん/草うしプロジェクト運営会議委員 古屋輝行

10.草うしの生態について基本的な話

10-2. 牛のエサ(飼料)と栄養

現在の牛のエサは野草、牧草を中心とした牛が本来食する粗飼料と、人工的に効率よく増体させるカロリー価の高い穀物やぬかなどをさす濃厚飼料とに分けられます。粗飼料の主な物にはオーチャードグラス、イタリアングラス、クロバー、れんげ等の牧草とあぜ草、ススキ、ササ等の野草、シバ草があります。濃厚飼料にはトウモロコシ、大豆、大麦、米、米ぬか、フスマ、ビールカス、ダイズカス、魚粉等があります。元来、牛は草食動物で粗飼料と言われている草類を食べて生きていましたが、いま一般的に生産・流通している肉牛は脂肪(サシ)を増やしたり、早く大きく育てるためにカロリー価の高い穀類等を大量に与える飼い方をするようになりました。それら濃厚飼料にはビタミンやミネラルが少なくそれを補うために特にビタミンA、Eを中心に薬剤投与で不足栄養分を補っています。


採草・自然乾燥後束ねた牧草

前項、反芻の部分で述べましたが牛には粗飼料は欠かせません。栄養の点でも、反芻して消化を助けるためにも良質な粗飼料は欠かせません。牧草には良いビタミン類ミネラル分が多量に含まれており牛の成長や能力を高めるのに絶好の飼料です。ビタミンは動物の成長を作るに不可欠の微量の有機物で、自分の体内で生合成できないため植物や細菌が合成したものを直接または間接的に摂取しなければなりません。ビタミンが欠乏すると壊血病、くる病、脚気、夜盲症等になります。ビタミンB、C、Kは第一胃内のプロトゾアや細菌の働きで作られますがA、D、Eは作れないので飼料から取る必要があります。ビタミンAが不足すると発育の停滞、発情不明や流産、水腫、視力障害が、Dは骨の発育に関係するもので難産や胎児の発育不良、くる病に。Dは日光浴により体内で合成されるので特に冬場の日光浴は大切です。濃厚飼料や稲わらや質の悪い牧草には大切な成分はほとんど含まれていません。例えば穀類主体の濃厚飼料にはほとんど含まれていないカロチンはビタミンAの素で、日本飼養標準(中央畜産会 著「農林水産省農林水産技術会議事務局編」)では肥育牛一頭一日当り体重450㎏で55mg、カルシウム20mgが必要で、これは濃厚飼料には少なく濃厚飼料多給型肥育では適宜ビタミンAやEなどを経口投薬などで補う必要があります。しかしまた一方でビタミンAの量を基準より低く制限すると脂肪交雑(サシ交雑)値が上がり、現状の肉質判定評価が良く高く取引きされるため、ビタミンA制限による欠乏症で腰が立たなかったり視力障害を持ったままの牛がたくさん肥育されているような例が多く見られます。また濃厚飼料は一般的に酸性の飼料でリン酸を多く含んでいます。健康な牛の体内ではカルシウムとリン酸の比率は2:1でつり合っていて、濃厚飼料を多給してカルシウムの補給がないと体質が酸性になり不足したカルシウム分を自らの骨からとって比率を一定にしようとします。そのため骨軟化症や流産、不受胎の原因にもなる。また濃厚飼料に依存した飼い方をした牛は厚脂、多脂になり肝膿瘍症候群(肝炎~肝硬変~肝癌)になる確立が間違いなく高くなると指摘されています。

濃厚飼料を常時多量に食べている牛は、ある時に生草を与えてもわらばかり食べるようになります。それは濃厚飼料を中心に食べていると胃の働きが活発でなく反芻力が弱くなり、そして胃壁も薄くなってきます。このため、牛は本能的・生理的に栄養はなくても繊維質の多いわらを採食しはじめるのです。胃を刺激し運動し、胃壁を摩擦し胃壁を発達させる役目があるからなのです。

(日本飼養標準=中央畜産会、改定肉牛飼養全科=農文協)