10-5. 繁殖農家(産みの親)と肥育農家(育ての親)・・・育て方のコツと子牛セリ市場
セリ市場
牛たちが生まれて大きく育つまでの間、産みの親、育ての親のように農家が役割を分担して育てます。母牛を飼育し子を生ませ、子牛(素牛)セリ市場に出荷するまでの子牛と将来の母牛にする子牛を育てる農家を「繁殖農家」といい、「肥育農家」は9ヶ月齢の子牛をセリ市場で買い付け立派な大人に育てる役割です。繁殖から肥育まで一貫して行う農家もありますが現在は効率の良いこの方法が主流です。
離乳してから12ヶ月齢までの子牛を当歳牛と言い、12ヶ月齢から24ヶ月齢までを明2歳牛と呼びます。この時期の育成のコツとして農家さんの間では“当歳でしめて、2歳でゆるめる”と言われています。12ヶ月齢までは充分運動をさせ肢蹄を鍛え骨格と丈夫な内臓作りに主眼をおき、12ヶ月齢以降にはさらにたっぷり飼料を食べさせ骨格のできた素地の上に肉をつけて体型を仕上げるのがセオリーと言われています。但し、しめるという表現は給餌量を減らすのではなく発育に必要な養分・栄養を充分与え、運動をよくさせて過肥にしない状態(若い段階から濃厚飼料を与え過ぎると脂肪がつき繁殖系や内臓障害の原因となりやすい)で、体高・体長・肢の長さなど骨格が充分に発達されなければなりません。
私たちと組合の共同取り組みの大きなポイントはここにもありまして、(組合内生産子牛以外に)市場で買い付ける子牛は生後3~7ヶ月間の親子放牧を十分に行った子牛に限定しています。そして栄養たっぷり、新鮮な草類を沢山食べ野山を歩き廻り体格も内臓も足腰も健康に育った子牛だけをセリ市場で買います。同じ近郷エリアの繁殖農家さんの中でも育て方、給餌内容、取り組み姿勢など良い育て方の繁殖農家さんとの日頃からの連携やコミュニケーションがここでものをいいます。
私たちの参加するセリ市場は2週間に一度、黒牛は水曜日に褐毛は木曜日に開催されます。子牛(素牛)の良し悪しを判断するには相当の見識・経験がないとできないのと、セリ市場で上っ面を見るだけでは中身までは十分に分かりません。“草うしプロジェクト”では、セリ市場での買い付けは組合長と幹部に全権委任です。日頃からの様々な情報がインプットされ買い付けられますが必ず狙いの牛が購入できるものでもありません。一旦セリに出されるとその日の相場ですから、あまり上がってしまうと買わずに次の機会を待ったりもします。年間の出荷、育成計画と子牛(素牛)の導入計画とがリンクしながら計画の上下にアローランスを持たせ、無理なく安定的にコストが大幅に振れなく購入できる工夫をしています。最近の健康・安全志向の高まりから“粗飼料多給の放牧型 褐毛和牛”そのものの評判が上がり高値相場傾向が悩みの種です。
一般的には取引きが成立したら所定の手続きを行い、全国それぞれの肥育場に輸送されます。牛は大変デリケートな生き物で、長時間の輸送には相当のストレス、疲れがでてきます。2・3時間の輸送でもそのストレスから元の元気な体調に戻すには早くても1~2週間かかります。私たちの場合は1時間程度の輸送ですみますが、熊本や宮崎市場で買い付け松坂や神戸、北海道など遠距離トラックでの輸送では弱りますから、到着後乾燥した牛床に敷きわらを充分に入れた休息室で特別に休ませ注意深く見守らなければなりません。そして長距離輸送は場合によっては抗生物質やブドウ糖注射などを行います。最近は予防のために薬物投与がなされています。
一般的な牛の流れは、黒牛の生産地で有名な兵庫但馬を始め、熊本・宮崎・佐賀・岡山・岩手・山形等々の繁殖産地セリ市場で生後8・9ヶ月齢の子牛を、サシ交雑と歩留まり度の良い血統牛の子牛を重点的に買い付け、それを松坂や神戸・近江などの肥育農家が育て松○牛や○戸牛などのブランド牛として売り出します。各農家、牧場での育て方(運動環境、給餌内容、水質、薬物摂取内容・・・)はそれこそ千差万別ですがほとんどの場合は運動量をおさえ濃厚飼料をたくさん与えサシを増やす飼い方をします。日本の市場では“サシ信仰”と言われるほど脂肪交雑の度合いが価格を決めてしまい、牛の健康度や組成分のポイントよりほとんどがそのサシ具合の多少に照準を合わせてた育て方をしています。