草うしのおじちゃん/草うしプロジェクト運営会議委員 古屋輝行

10.草うしの生態について基本的な話

10-4. 牛の出産と育て方

牛は一年一産、妊娠期間約10ヶ月(285日)でだいたい人間より少し短い期間。受精はほとんどの場合、優良種牛の凍結精液による人工受精交配法で80%前後の受胎率です。

繁殖牛(母牛)は平均2~14・5歳まで毎年仔牛を産み育てることができますので、その期間はきちっとした飼育管理を行い、放牧して草を食み運動をし、のびのび健康的に育てて、発情~受精~妊娠~育成~分娩出産・・の正常なサイクルを繰り返さなければなりません。雌牛の初回発情は生後平均10ヶ月齢程度でおこるように育成していて過肥で早くなりすぎても、発育不良で遅れてもだめです。発情の周期は21日で、一回の発情期を見逃すと次の発情を待たなければなりません。その時を捉えて受精させその後285日で分娩。また分娩後40日頃に再起発情といって分娩後一回目の発情が起こり、80日頃で次の受胎をしなければ、一年一産はできません。


産まれたばかりの草うし

繁殖牛(母牛)は分娩してからは生まれた子牛に乳を飲ませ育てながら次の出産のために受精・受胎を行い、また子牛の離乳後は放牧スタイル(または、それに準ずる方法)で新しい次の子牛のために栄養たっぷりな草を食み体力をつけるのです。


牧草地での授乳風景

子牛は生まれて30分程度で自力で起き、母牛の乳房を探して乳を飲みます。子牛には、生後3日間は必ず初乳を飲ませる必要があります。初乳は普通の牛乳に比べてカロテン及びビタミンA・D・E・微量無機物のほか免疫グロブリンを豊富に含んでいます。牛では胎子期に母牛から免疫グリブリンの移行がなく、子牛は血液中にほとんど免疫グリブリンを含まない状態で生まれるので、初乳を飲ませることは母親から病気に対する抗体を移してもらう事と、胎児便の排出を促す下剤の役目を兼ね仔牛の健康維持に不可欠な事です。新生子牛が初乳に含まれる免疫グロブリンを小腸から吸収し、血中に取り込める時間は通常生後24時間以内で新生子牛にはできるだけ早く初乳を与える必要があります。平均的な泌乳能力の母牛に哺育される子牛は、3週齢頃までは正常な発育に必要な全ての栄養素を母乳だけでほぼ摂取できます。その頃以降は子牛の養分要求量の増加分の摂取を牧草などの固形飼料で補う必要があります。また健全な反芻胃機能を促すためにも、自然哺乳子牛には2~3週齢から良質な草類の粗飼料が摂取できるようにしなければなりません。

哺育期の子牛にとって母乳は重要な栄養源であり、哺育初期(2ヶ月齢)においては子牛の発育の差は80%以上母乳摂取量の差によると言われ、6ヶ月齢離乳の子牛でも母乳由来の代謝エネルギー(ME)、粗たんぱく質(CP)摂取量は全摂取量の約50%を占めるほどです。牛の体躯の基本はこの生後6・7ヶ月齢までの育て方で決まるほど重要な期間です。ですから我々は母牛の初乳から自然哺乳をし、離乳期からの親子放牧で草を食み反芻機能を高めながら健康牛の基本となる躯体をつくる・・・ことにこだわります。

一般慣行的飼育方法では子牛には7日齢まで初乳または牛乳を飲ませ、1週齢以降すぐに母親から離し3ヶ月齢までの育成には抗生物質や様々な薬物入りの代用乳や人口乳、離乳用濃厚飼料を用い、多頭飼養や作業効率を高める目的で早期離乳方式が一般的です。代用乳にはまた別の懸念*注も指摘されています。(*草うしは一切不使用)

*注

***(2006・2・23 週間新潮 日本ルネッサンス) 櫻井よしこ
「何が原因なのか、日本のBSE」より

=要旨= 人間で言えば粉ミルクに相当する代用乳。日本で発見されたBSE感染牛22頭(この段階で)の内21頭に全国農業共同組合連合会(全農)の子会社=科学飼料研究所高崎工場が生産した“ミルフードAスーパー”と言う代用乳が与えられていた。例外は21頭目の感染牛だけでこの牛は全国酪農業協同組合連合会(全酪連)系列のサツラク農業協同組合製造の代用乳を与えられていた。ミルフードAスーパー(代用乳)にはBSE発生国のオランダ産の粉末油脂が入っていた。代用乳給与牛の数は肉骨粉給与牛の数とは比較にならない。全国の牛450万頭中、肉骨粉給与牛は5000頭、代用乳給与牛は軽く100万頭を超える。日本のBSEの真の原因は全農傘下の子会社が作った代用乳だと思えてならない。(略)