草うしのおじちゃん/草うしプロジェクト運営会議委員 古屋輝行

14.阿蘇の草うしを世界に通じるブランドに

冒頭に安全で健康で信頼できる新しい“質のスタンダード” “質のヒエラルキー”を創りましょう・・・とうたいました。生産者側と消費者側の中間にあってその正しい橋渡し役を担わなければならない百貨店やスーパーなどの大型流通・小売業の使命ってなんだろうと考えた時、一番重要なことはやはり販売する商品の品質という「品ものの質」の基準が確かであること。生活の中心にありその品や価値を創ったり、実現が難しいことをいち早く高い基準で実現し消費者に提示・提案できることではないでしょうか。昨今、食品の安全性について産地、メーカー、流通、小売に至るまで生活者の信頼を大きく失っています。安全だと思われていた有機野菜でも有機認定者の不正や恒常的に虚位の品質内容申告など枚挙にいとまがない。例えば百貨店やスーパーの店頭を粒さに見てそのような“質”に対する厳格な提供者になっているでしょうか?そして本当に自分たちで基準を作り確認し態勢をつくり、そのものを自信をもってお奨めできているのでしょうか!?客観的・科学的に追及した正確なデーターを示して販売しているのでしょうか!?

いま産地でもバイイング現場でも、あちらでもこちらでも「何か付加価値がないと売れない・・」の大合唱。もちろんそれもあれば良いのでしょうが、それ以前にそのモノの本質的な価値=基本価値がまずそれで良いのか充分に論議、確認(実証)されなければ何にもなりません。

例えばよくある店頭表示に「私たちが愛情をもって育てました~」的な情緒的なコピーと生産者の写真が貼り付けたPOPがありますが、野菜にしても畜産物にしてもその具体的な育て方の内容が明記されていないものがほとんどです。生産者の写真が出れば何となく安全だろ~といった情緒的なものでそれこそ“上っ面の付加価値風”的なもので生産者にも消費者にも迷惑な行為。生産者は「愛情をもって~一生懸命育てる~」ことは当たり前だし消費者はその具体的な内容に対して対価を払って購入し素晴らしいものであれば継続購買するだろうし。野菜は“有機農法野菜”“特別栽培”“減農薬”・・・等々表示がある場合や中には有機野菜コーナーとして存在されているところもありますが、畜産物にはほとんどそんな表示はなく、牛の種別名称や産地の表示と義務付けされている10桁コード程度で、そのものの育て方や餌や薬物の使用状況等々・・・本当に消費者が知りたい情報が表示されていません。

畜産界のバイブルである農林水産省農林水産技術会議及び国・公立機関が策定発刊している「日本飼養標準 肉用牛○○○○年度版」をはじめ畜産専門書には、濃厚飼料多給飼育での牛の健康障害の危険性を明確に指摘されている。にも関わらずサシを多く差し込むための濃厚飼料多給の飼い方が主流で一向に改まらず、更にサシが多く入る方法として飼育のある時期にはビタミンA制御という方法まで作り出しとにかくサシを差し込む。その結果、と畜検査における肝膿瘍症候群をはじめ驚異的な疾病率、廃棄率と病気内容となっている。国民の健康を創るための基幹食材がこれで良いのか疑問である。

大手流通でなければ出来ない業界に先駆けた安全基準情報が一般に開示され、消費者がその内容を理解した上でいろいろ品質と価格の比較購買が容易にできる(ウエルバランス)店頭販売体制になっていなければなりません。それでなければ百貨店もスーパーも流通小売業としての存在価値・存在理由はありません。

一方畜産界でも健康・安全を求める時代の声に後押しされるように、農林水産省と(社)日本草地畜産種子協会、(社)中央畜産会、(社)中央酪農会議、(社)全国肉用牛振興基金協会の畜産4団体に学識者、業界を加え「健康な放牧牛の生産の推奨と生産基準策定審議委員会」が発足し一年間の論議を踏まえそのガイドが示された。その内容は概ね私たちが取り組んでいる基準がスタンダードとして設定された。畜産研究機関や大学教授、専門家間では「牛の健康を担保するには放牧などによる運動と良質な草を全給餌量の25%(乾草換算)以上与えること」・・・で一致した。今後「放牧牛=健康牛」を公的な認定証を発行するような認証制度が発足する方向である。

以上いろいろ述べてきましたが、現行の“肉質等級格付け基準”による“日本の牛肉の質”そのものが安全で健康な牛肉の品質を評価する基準か否かと疑問を持ち、脂肪交雑(サシ・霜降り)の多少による格付け等級判定の前に、その牛そのものが健康な品質となる飼い方をしているのか、健康体なのか!?栄養素や機能性成分が充分であるか!?を評価の大前提にした真の質による基準・ヒエラルキーを作り、消費者に本当に安全で旨い肉を安定的に提供することを目標にしなければと活動を続けています。

私たちが旨くて健康な牛とは・・・という基準を1000年前からの「阿蘇牛」畜産の歴史と太古からの自然風土に育まれた環境に立脚し、更に学術的に検証し設定して作り上げた牛がこの“阿蘇の草うし”です。これからも放牧による運動と太陽、野草、牧草から吸収する栄養分、そしてストレスや病気、薬物投与のない飼育方法を行い、公的研究機関、専門家、学術者、お客さまから認知され喜ばれる食肉牛づくりに弛まぬ努力と研鑽を重ねたいと思います。

お客さまにヘルシーで安全な牛肉をお召し上がりいただくために、全ての飼育過程、環境に徹底した基準とこだわりを持ち、生産履歴の明確な阿蘇・上田尻牧野組合産褐毛和牛 「阿蘇の草うし」をどこよりも安全で健康な牛肉のクオリティ・ブランドとしてお届け致します。

※現在審議中の「放牧牛認定基準」概要は以下の内容

*放牧畜産の基準作成・普及推進検討委員会  (社)日本草地畜産種子協会

放牧牛認定基準 概要

  • ・肉牛繁殖牛及び農家と製品に対して認定(酪農にも別途適用)
  • ・親牛・子牛(放牧親牛でその親牛から出産した子牛)
  • ・飼育期間(繁殖~肥育通算)を通し、最低3ヶ月以上の放牧期間があり、全期間通算30%以上の良質

粗飼料多給型(DM乾物換算)での飼育。

  • ・予防目的での抗生物質、成長促進・ホルモン剤、栄養補給剤、人口繊維代替物の使用禁止(病気治療には獣医師による指示履行に限る。記録完全保存)。
  • ・親牛、子牛、肥育牛の飼育記録の保持と開示
  • ・畜舎環境=一頭/5m2以上、採光、風通し、水はけがよく新しいオガクズ・敷きワラが充分行き渡り糞尿の処理が常にできている乾燥して清潔な環境。

(北里大・萬田教授を座長に農水省、学識者、生産者、畜産団体、乳業・食肉製造卸メーカー、小売り各分野から代表審議委員20数名が選出され内容について審議。H20.2月に基準概略がまとまる。「放牧健康牛」としての認定制度が正式に発足するにはまだ検討する事項があるので、発行はH21年度以降となる見通し。肉牛の基準はほぼ草うしスタンダードタイプ基準となる。

●文中用語の解説

慣行牛 =肉牛の一般的慣行的な飼育方法で集約工業的に育てられた牛。産まれて(畜舎内で)離乳後即人工乳・代用乳と離乳用濃厚飼料で数ヶ月育てられ、子牛市場でのセリにかけられ全国の肥育生産者に引き取られる。そこでは畜舎飼いで濃厚飼料多給(一部反芻のために稲わらなども給与)で出荷までの生後三十数ヶ月飼育されます。狭い畜舎内で運動をさせず、日光にもあてずひたすらサシを増やすために太らせます。経営効率のため集約工業的に飼いますので、集団で感染症になることを防ぐための抗生物質の投与や濃厚飼料に含まれない様々なビタミン質を合成ビタミン剤で補給したり、仕上げ期にサシをより増やすためにビタミンA抜きにしたりといった飼育方法で育てた牛のこと。中には足腰の立たない牛(へたり牛と業界では呼ぶ)や肝膿瘍症候群になっている牛もたくさんいる。流通している黒毛を中心にほとんどがこの方法で、その健康度や安全性について学識者や専門機関から問題点が指摘されています。
グラスフェッド =自然の牧草だけで育った牛で無駄な脂肪分がなく、赤身の多い最も牛肉本来の味が濃い牛肉。ヘルシー志向の方におすすめの牛肉。
グレインフェッド

=肥育場で、高カロリー・高たんぱく・高脂質な穀物を中心とした飼料で肥育された牛。その配合の具合や給与期間・量でサシ交雑度合いが変わります。さらにその度合いに応じてショート・ミドル・ロングの3タイプがあります。(以下NZ基準)

  • ・ショートフェッド・・自然の牧草で育てた後に、100~120日間だけ穀物を与えわずかに霜降りが入る程度(マーブリング・チャート2程度)
  • ・ミドルフェッド・・・穀物肥育期間150~180日間、チャート3・4程度。
  • ・ロングフェッド・・・穀物肥育期間200日間、チャート6以上

●資料・参考文献

  • ・農林水産省農林水産技術会議事務局編 日本飼養標準・肉用牛(2000年版)=社団法人 中央畜産会 刊
  • ・改定 肉牛飼養全科=土屋平四郎 高久啓二郎 著、(社)農山漁村文化協会 刊
  • ・日本とEUの有機畜産―アニマルウエルフェアの実際―= 松木洋一・永松美希 著 (社)農山漁村文化協会 刊
  • ・牛肉料理大全 (株)旭屋出版
  • ・関西大人のウォーカー (株)角川クロスメディア
  • ・ミーツ・リージョナル 京阪神エルマガジン社
  • ・月刊「専門料理」 (株)柴田書店
  • ・今さら聞けない肉の常識 平野正男 鏡晃 著・(株)食肉通信社